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東京高等裁判所 平成元年(う)160号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告会社株式会社甲を罰金一五万円に、被告人乙を罰金一〇万円に各処する。

被告人乙において右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は、被告会社株式会社甲と被告人乙の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、被告人両名の弁護人芝田稔秋作成名義の控訴趣意書及び同追加と題する書面に記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官佐野眞一作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。

一  審理不尽、理由不備、判断脱漏の違法があるとの主張(控訴趣意第一)について〈省略〉

二  事実誤認の主張(控訴趣意第二)について〈省略〉

三  法令適用の誤りについて

被告会社に関する量刑不当の主張について判断するに先立ち、職権によって原判決の法令の適用の当否を検討するのに、原判決は、被告人両名に関する原判示第二の事実に適用した罰条として、単に建築基準法九九条一項二号、六条一項四号、被告会社につき一〇一条等を挙げている。しかし、同法九九条一項の罰条は、昭和六二年法律第六六号「建築基準法の一部を改正する法律」によって刑の変更がなされ、改正前の罰金額が「一〇万円」であったものが、右改正によって「二〇万円」に引き上げられ、同年一一月一六日から施行されると共に、同法附則四条によって、改正前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によることとされたことが明らかである。従って、改正法施行後に判決をした原裁判所が同法を適用するに当たっては、罰則の適用に関する右経過規定によって、本件については改正前の同法同条同項を適用する旨を明示しなければならなかったのに、原判決は、その点の明示をしておらず、このままでは、法令適用の原則に従い、刑が引き上げられた裁判時法を適用したものと判断せざるを得ないから、その点で原判決には法令の適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであると考えられる。

更に、原判決は、被告人両名に関する原判示第一の廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の事実について、原判決別紙記載の番号一、二の各事実ごとに同法二五条一号、一四条五項違反の罪が各別に成立するものとし、それぞれの罪について罰金刑を選択した上、併合罪として刑法四八条二項により刑の加重をしている。しかし、同法二五条一号、一四条五項違反の罪は、所定の許可を受けないで事業の範囲の変更をすることによって成立する罪であるから、例えば許可された事業の範囲に保管行為が入っていない場合に、二個の排出事業所から日時を異にして収集した廃棄物を、ある時点以降同じ場所で、同時・並行的に保管していることが事業変更に当たるという本件のようなときには、収集先や保管開始時期等は各別であっても、事業の範囲の変更はその双方につき全体として一つと考えられるから、一個の同法条違反罪が成立すると考えるのが相当である。従って、これを併合罪であるとして刑の加重をした原判決には、罪数に関し法令の適用を誤った違法があると考えられる。そして、同罪の法定刑(一年以下の懲役又は五〇万円以下の罰金)と、被告人両名について成立に争いのない建築基準法違反の罪の法定刑(一〇万円以下の罰金)を比較対照すると、廃棄物の処理及び清掃に関する法律二五条一号、一四条五項違反の罪の法定刑の方が重いから、重い方の罪の罪数判断を誤ることは、処断刑に影響し、一般に判決に影響を及ぼすことがないとはいえないと考えられる。もっとも、罪数判断を誤った場合であっても、処断刑である刑期の範囲や合算罰金額の範囲にそれほどの変更がなく、しかも宣告刑がその処断刑期や罰金合算額の範囲内の甚だ低い方にとどまっている場合には、その法令適用の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない場合があると考えられるが、本件の場合には、判決に影響を及ぼすべきものといわなければならない。以上に述べたところによれば、原判決は、被告会社及び被告人乙の双方について、破棄を免れない。

次に、原判決は、被告人乙に関し、原判示第一の廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の事実について同法二五条一号、一四条五項、刑法六〇条を、また、原判示第二の建築基準法違反の事実について同法九九条一項二号、六条一項四号をそれぞれ適用し、その上でその余の法令適用をしていることが明らかである。ところで、廃棄物の処理及び清掃に関する法律において、事業の範囲の変更につき知事の許可を受けるべきであった者は、産業廃棄物処理業の許可を受けていてその事業範囲の変更をしようとしていた被告会社であり、従って、同法一四条五項に違反したのは直接には同会社であるから、同条違反についてその行為者である同会社の代表者被告人乙を処罰するに当たっては、前記罰条の外、同法二九条を適用することが必要であると考えられる(最高裁判所昭和五五年一一月七日第一小法廷決定。刑集三四巻六号三八一頁参照)。同様に、建築基準法違反についてその行為者である同会社の代表者被告人乙を処罰するに当たっては、同法九九条一項二号、六条一項四号のほか、一〇一条を適用することが必要であると考えられる。ところが、原判決は右各罰条を適用していないので、その点において法令の適用を誤ったものといわざるを得ず、その誤りは判決に影響することが明らかであるから、原判決は、その点で同被告人につき、破棄を免れない。

従って、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告人両名について、更に次のとおり判決する。

原判決が認定した罪となるべき事実に法令を適用すると、被告会社及び被告人乙の原判示第一の所為は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第二九条、二五条一号、一四条五項(被告人乙について、更に刑法六〇条)に、また、原判示第二の所為は昭和六二年法律第六六号附則四条により、改正前の建築基準法一〇一条、九九条一項二号、六条一項四号にそれぞれ該当するところ、被告人乙に関し、原判示第一の罪について所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定の罰金額を合算した金額の範囲内において処断すべきところ、その量刑事情について考えるのに、本件は、廃棄物の違法保管及び建築基準法違反の両事実にかかる事犯であり、被告会社の代表者であった被告人乙らは、何れも、法による規制があることを知りながら、利潤追及のためにこれらを無視し、最終的に事態が露見して強い規制措置を受ける段階になるまで、違法状態を放置する態度であったものである。その間、特に違法保管による付近住民の苦痛が少なくなかったことは、本件がそれらの者からの苦情に端を発していることを見れば理解することができる。従って、本件は、犯情の軽くない事案と考えなければならない。そこで、産業廃棄物処理業界における土地探しの苦悩、住民の不協力による困難、排出事業者の処理費を惜しむ態度等をも総合考慮した上、被告会社を罰金一五万円に、被告人乙を罰金一〇万円に処し、被告人乙において右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、原審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告会社と被告人乙との連帯負担とする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 船田三雄 裁判官 小林隆夫 裁判官 秋山規雄)

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